地震活動解析システムの開発

概要

地震に関するデータは、我が国では全国にわたる観測網が整備されており、Hi-net(高感度地震観測網)によって一般に公開されています。その中で気象庁が作成する震源データを活用して、地震活動を解析するシステムを開発しました。解析事例として東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日、マグニチュード 9.0)をとりあげ、前後 5 年間の地震活動を比較します。

震源分布

東北から関東にかけての地域を海洋領域 A と内陸領域 B に分割し、それぞれで発生した地震の震央(震源を地表に投影した位置)を 図 1 に表示します。地震はマグニチュード M が 4 以上のものをとりあげ、東北地方太平洋沖地震(以後巨大地震と略記)の前 5 年間に起きたものを青で、後 5 年間に起きたものを赤で色分けします。

図1.東北から関東にかけて発生した地震の震央分布。地震は海洋領域 A と内陸領域 B で発生したものに分け、巨大地震(2011年3月11日)の前 5 年間に起きたものを青。後 5 年間に起きたものを赤で示す。

図 1 は深さが 30 kmより浅い地震をとりあげ、沈み込む海洋プレートで起こる深発地震は除外します。領域 A の地震は主に海洋プレートと陸のプレートの境界で発生するプレート間地震、領域 B の地震は主に陸の地殻で発生する内陸地震です。

海洋領域 A では、地震活動は巨大地震後に急に活発化し、震央が重なり合って見分けられないほどです。巨大地震の前には陸からやや離れた位置にまとまっていましたが、巨大地震で震源が陸に近づいたようです。前の地震は巨大地震の発生のために環境を整えていたとも理解できそうです。

内陸領域 B の地震は巨大地震で震源の位置がずれたようにみえます。巨大地震の前は領域全体に分布していたのが、後の主要な活動は南と北に別れ、その位置は巨大地震の断層の北端と南端の延長付近に分布します。巨大地震による断層すべりが断層の境目で応力を高めたことを表すのかもしれません。

地震で放出されるエネルギー

マグニチュード M の地震が地震波などとして断層から放出するエネルギー E

  E = Eo101.5M

と見積もられます。ここで、定数 Eo は約 105 J(ジュール)の値をとります。

この関係式を用いて個々の地震のエネルギーを見積もり、それを積算して領域 A と B で放出されるエネルギー放出率(J/day)を計算したのが 図 2 と 図 3 です。巨大地震前 5 年間の活動を青、後 5 年間の活動を赤で色分けします。横軸の時間は 2000年1月1日から経過した日数です。

図 2.海洋領域 A で地震によって 1 日に放出されるエネルギーの変化。
図3.内陸領域 B で地震によって 1 日に放出されるエネルギーの変化。

地震は突発的な現象ですから、エネルギー放出率にも大きなゆらぎが生じますが、全体的な変化から巨大地震の影響がはっきり読みとれます。巨大地震の前はエネルギー放出率がほぼ一定だったのが、巨大地震で大きく増加し、その後時間をかけて減少しています。

巨大地震後のエネルギー E と時間 t の関係を簡単な関係式

logE = Aexp ( -t /T ) + C

 ( A , T , C は定数)で最小二乗法を用いてフィットし、結果を図に黒の曲線で示します。

海洋領域 A では緩和時間T は約 370 日になります。ただし、この緩和が終わってもエネルギーの放出率は元に戻りません。エネルギーの放出には他にもっと長い緩和過程が存在するのかもしれません。あるいは、巨大地震によって地震の発生環境に半永久的な変化が起きたのかもしれません。

巨大地震の影響がその断層が存在する領域 A ばかりでなく、隣接する内陸領域 B にも及ぶことは注目に値します。B でも巨大地震によってエネルギー放出率が急増し、その後緩和していきます。緩和時間T も 320 日と A の値と類似します。

地震の断層で余震の数や規模が一定の法則に従って減少することはよく知られていますが、図 3 は影響がもっと広い範囲に及ぶことを示唆します。余震の減少がフラクタル的なのに対して、エネルギー放出率の減少には時定数T が存在することも注目されます。

大きな地震によるエネルギー放出率の急上昇とその後の減少は、領域 B にはもっと小さなスケールでいくつかみられます。例えば、2753 日(2007年7月16日)には M 6.8 の地震が、3086 日(2008年6月14日)には M 7.2 の地震が起き、その後には類似な変化が起きています。

謝辞

解析には Hi-net にリンクされた気象庁の震源データを用いました。

研究開発センター

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