インクジェットプリンタの液滴形成過程の解析

1.背景と目的

インクジェットのプリントヘッドはインク液を微細滴に分離して繰り返し吐出し、塗布対象メディアに付着させます。インク液滴を高速かつ安定した軌跡で放出することが高品質プリントに必要です。

数10μmのノズルに瞬間的にインク液を供給する方法は、サーマルジェット方式とピエゾジェット方式があります。サーマルジェット方式は、局所的な瞬間加熱で発生した蒸気気泡の膨張がインク液を押し出しますが、周囲液に冷却されて蒸気が凝縮し気泡が崩壊するまでの極めて短時間に終了します。ピエゾジェット方式は、ピエゾ素子にパルス電圧を印加し、瞬間的な歪振動によりインク液を短時間押し出す方法です。

2.解析の概要

本解析事例は30μmのノズルに約20μsの間にピエゾジェット方式で最大7m/sの流速のインク液を供給したときに形成された液滴の解析結果を示しています。常温常圧の水と同じ液物性を用いて約130万の計算格子を用いて計算しました。

解析条件は以下の通りです。

メッシュ数約130万
計算時間デスクトップ PC(Intel Core2 CPU 6300, 1.68MHz,2.0 GB RAM)で2日
二相流モデルVOF/PLIC 法
表面張力計算LevelSet 関数による CSF 法
離散化法コロケーション有限体積法

インクジェットプリンタの液滴形成過程の解析事例

液供給により比較的大きい液滴が吐出されますが、供給停止後も後部に引き伸ばされた細い棒状の液が続きます。この棒状の液が表面張力により大きい液滴とノズルから分離してサテライトと呼ばれる小さい液滴が形成されます。

サテライトは分離形成時に大きく変形し、そのときに働く力はサテライトの運動に影響します。サテライトの形成と運動の制御は、プリント品質に影響します。

3.考察、今後の課題

サテライト形成過程において、細い液柱が引き伸ばされて細径化し破断する際の先端部の形状と表面張力評価は、数値計解像度の問題を超えて分子レベルの機構の考察が必要となる可能性があります。適切な破断モデルと実験結果と比較した検証が必要です。

液滴は塗布対象メディアに着弾して半球状の液滴になりますが、加熱や送風による蒸発の結果液滴内の顔料濃度増加と微細流れが生じ、ゲル化が非均質に進んで乾燥後に塗布面が滑らかにならないことがあります。最終的なプリント品質の向上には塗布から乾燥まで一貫した評価が求められます。

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