コラムΩでは、管路系の水理解析に関連した情報を取り上げていきます。
用語の意味と技術者の主観の入った一言コラムがおまけでついています。

コラムΩ 基礎編

【圧力】

単位面積あたりにかかる力です。作動流体により、大気圧(大気の圧力)、水圧(水の圧力)、血圧(血液の圧力)などがあります。流体は基本的に、圧力の高いほうから低いほうへと流れます。単位は[Pa]や高さ単位に換算した[m]が使用されます。

圧力の単位で一般的なのがPaですが、応力(stress)の単位もSIではPaが用いられます。同様に弾性係数もPaという同一の単位で表せるので便利になったといわれています。(吉岡 逸夫)

【大気圧】

地球にかかる大気による圧力のことをいいます。標準大気圧は101325Paと決められています。

標準大気圧は0℃の水銀柱760mmの重さに相当する圧力です。一般に大気圧以上の圧力を正圧、大気圧以下の圧力を負圧といいます。(吉岡 逸夫)

【飽和蒸気圧】

液体が気体になる圧力のことをいいます。やかんを火にかけると水が100℃になった時沸騰します。この温度を沸点と言いますが、これを圧力側からみた場合、圧力をどんどん下げていくとある圧力で水が蒸気になります。

蒸発に関連して、水の沸騰曲線の話を思い出しました。水の沸騰曲線は1932年東北大学の抜山四朗先生が確立したものですが、最近では沸騰曲線という呼び方だけ生き残り、抜山先生の名前が消えていますが、沸騰曲線中の限界熱流束点のことを最近でもドイツではNukiyama Punkt(ぬきやま・ぷんくと)と呼んでいるそうです(最近と言っても筆者が学生だった1981年ごろの話ですが)。(吉岡 逸夫)

【絶対圧とゲージ圧】

絶対圧は、真空を0とした圧力で、絶対圧であることを明記するために単位にA(absolute)を付け[PaA]と表すことがあります。負の絶対圧は存在しません。これに対し、ゲージ圧は大気圧101325[PaA]を0とした圧力で、ゲージ圧であることを明記するために単位にG(Gauge)を付け[PaG]と表すことがあります。ゲージ圧は-101325[PaG]まで存在します。

実用上(例えば水道やボンベの圧力など)はゲージ圧が多く使われていますが、基礎研究分野や宇宙分野では絶対圧が用いられることが多いようです。(秋村 友香)

SI単位の使用法については、ISOによる使用規則があるようです(国際度量衡委員会では勧告扱いです)。それによると、‘どんな場合でも単位記号には添字をしてはならない’そうです。例えば、5MPaG、5MPaAは、それぞれ5MPa[gauge]、5MPa[abs]のように表記するのが原則になります。とはいうものの、どんな分野でも慣例的な表記があるものです。(吉岡 逸夫)

【水頭】

圧力を水の高さで換算したもの。単位は[m]。静水頭と圧力水頭の和はピエゾ水頭と呼ばれ、高低差のある地形の管路系のエネルギーを表すのに使われます。

水理ではよくメートルで表しますね。「ポンプで圧力を50mまで昇圧して、標高30mまで流して…」とか「水位50mのタンクから自然圧送する」というように使うと、すべてメートル単位で表されてイメージしやすいと思いました。(秋村 友香)

【流量】

流体が単位時間あたりに流れる量を流量といいます。大きくわけて体積流量[m3/s]と質量流量[kg/s]の二種類があり、質量流量は密度に依存します。流体があっても流れていなければゼロとなります。

数値計算では、あらかじめ正の方向を定義しておき、逆流はマイナスの流量で表します。(秋村 友香)

【音速】

音が伝わる速度を音速といいます。1気圧の空気の中では約332m/s、液体中では1000~1500m/sの速度です。圧力波も音速で伝わります。

音の伝播

水中では空気中の3倍から4倍の速さで音が聞こえるため、どの方角から音が鳴っているのか分らなくなるそうです。海水浴やダイビングをされる方はご注意を。(佐藤 幸男)

左右の耳に届く音の時間差がほとんどないからですね?初耳です。(秋村 友香)

コラムΩ 物理現象編

【水撃】

水の流れを急激に止めると、水は慣性を持っているのでその分が運動量の上昇となり、大きな圧力上昇が起こります。圧力上昇は圧力波となって音速で上流側に伝わります。

Advance/FrontNet/Ω の解析依頼の中で、もっとも多いのが水撃圧予測です。管を破損するリスクや、管種管厚にどれくらいコストをかけるかにかかってきますので、解析をするメリットがあるのでしょう。(秋村 友香)

【液柱分離】

管内が液体で満たされている場合でも、管内圧力が低下して液体の蒸気圧に達すると気化して気体へと相変化します。この気体の空間がつぶれると、大きな圧力上昇が発生し管路破損の危険があります。

水撃と同様、危険な現象です。一般にポンプトリップ時の水撃と言われているのは液柱分離再結合による圧力上昇をさします。関節がボキボキと鳴るのも液柱分離現象らしいです。(秋村 友香)

【満管(状態)】

管内が液体で満たされていて、ガスの相がない(水面がない)状態のこと。クローズドパイプラインとも呼ばれます。圧力を有効に活用することができる一方、水撃圧に耐えられる管を選定する必要があります。

Advance/FrontNet/Ω は満管状態を仮定しています。空気の相がつぶれるとき、液柱分離と同様に圧力上昇が起こります。下水道では大雨のときにマンホールが飛んだりして危険なようです。(秋村 友香)

コラムΩ 数値計算編

【1次元という考え方】

流れの方向が1方向の場合、その方向に沿って方程式を立てて、解く考え方。管路系の流体は長手方向の流れが支配的であり、1次元で近似される。

流れ方向が1方向/流れ方向が1方向でない

「数値計算」という言葉で一般の人が思い浮かべるのは、エクセルのような表計算か、3D映画に代表されるような3次元モデルでしょう。これらは、計算量としては大小両極端の例です。「一次元計算」というのはその中間で、なじみにくいかもしれませんがなかなか有用です。コンピュータのパワーが小さかった頃からあり、3Dほど派手ではありませんが、長手方向が支配的である管路系の中の流れをよく表現でき、計算量も3Dほどない点で実用的です。(浜野 明千宏)

流れを1方向で考えてもよい系の例は、水道や都市ガス、エンジンなどの管路系の他、血管系や地下鉄や道路交通網などがあります。地下鉄や道路は流体ではないですが、1次元的なモデリングが可能です。(秋村 友香)

【定常解析】

パイプライン中の流速および圧力が時間的に変化せず、一定に保持されている状態の流況が定常状態の水理現象であり、定常解析はその流況を解析することである。定常流況は非定常流況の一形態であり、広い意味で定常解析は非定常解析に含まれる。

1から流入した液体が2~5から流出する定常流況のイメージ

準備中

【境界条件】

数値計算で対象とする範囲と外界との境界に設定する条件など。圧力や流量などで、固定値や時間変化を考慮して設定する場合もある。

シミュレーションは、無限の空間の一部に注目して、そこを対象に計算するので、対象外とした部分の効果をどのように計算に反映するかが結果の精度を左右します。

条件の組み合わせによっては、ありえない(解がない)ことも起こるので、注意が必要です。簡単な例では、流入の合計と異なる流出条件を設定すると、質量保存が成り立たずに計算できません。

出口の全部または一部を圧力境界とすれば計算で自動的に保存則が成立できるなど、ノウハウがあります。(浜野 明千宏)

【離散化】

本来は連続な数値で表されている物理量や物体の形状等を不連続な数の集合体で近似し、コンピュータで扱えるようにすること。

離散化前(左)、離散化後(右)

図のΩという文字を離散化すると右の図のように色つきの四角形の集合体で表されます。シミュレーションでも同様のイメージで解析対象を離散化しています。ここで文字を構成する四角形を小さくしていくと、ぎざぎざが小さくなり、曲線がなめらかになって、離散化前の本物に近づきます。ただし文字を表現するために必要な四角形の数が増え、計算時間やデータ量が増大します。

シミュレーションの場合も同様で、計算精度をなるべく損なわないようにしつつも、コンピュータの負担が増大しないように絶妙な調整が必要となってきます。(佐藤 幸男)

【モデリング】

実際の管路系の図面があるとします。この管路系を計算で考慮できるモデルに焼きなおすことをモデリングといいます。モデリングは、計算に用いるソフトウェアの性質を理解していることが重要になります。また、どの程度計算精度を追求するかや手間と時間をかけられるかにより、モデリング方法も変わってきます。

モデリング

モデリングはある程度のノウハウが必要かと思います。図面を忠実に再現するにはかなり手間がかかりますし、何が省略できるか、何が最低限必要かということが重要です。水路の水撃解析では管芯高の一番高いところ低いところや総延長が重要で、継手などの細かいところは省略したモデリングが多いと思います。(秋村 友香)

コラムΩ 流体機器編

【配管の呼び径(nominal diameter)】

パイプ、管継手やバルブのサイズの呼称。鋼管のJIS規格では、A呼称とB呼称の2つの系列があり、Aはmmに相当し、Bはインチに相当します。

内径=口径≠呼び径

業界の日常用語ながら、門外漢にはとりつきにくいものです。「mm」単位の場合、数字をまるめて表示しているので「呼び径」と呼び、インチ単位が基準なのは、明治時代に、ヤード・ポンド法を採用しているイギリスから導入された背景によります。外径なのか内径なのかという話がありますが、欧米では元々内径が基準でこれが元になっていました。外径を変えることで肉厚を確保していたのが、配管の互換性等の必要性から外径基準となり、技術の進歩で肉厚が薄くできるようになると内径も大きくなり、内径の方も呼び径と異なるようになっていったということです。(浜野 明千宏)

呼び径はφ(ファイ)をつけて直径であることを表すことがあります。φ100など。後ろにφをつける場合(100φなど)、パイと呼ぶ人がいますよね。(秋村 友香)

【配管のスケジュール】

圧力配管用炭素鋼鋼管(STPG管)や配管用ステンレス鋼鋼管(SUS-TP管)などに使用されている、配管厚さの規格で、記号「Sch」の後ろの数字で示します。その内容は、アメリカ機械学会(ASME)のボイラー規則で用いられているバーロー(Barlow)の式に基づき、管の腐れしろや厚さ許容差を見込んだ肉厚の目安を得るために、使用温度での許容応力、使用圧力の比で得られた外径及び肉厚の組み合わせです。したがって、同じスケジュール番号に属するどの外径の配管でも同じ圧力、温度条件に適合するようになっています。

シミュレーション一筋でやってきて、初めて配管を対象とすることになったとき、まず戸惑ったのがこの用語です。門外漢からすれば、何で流れの計算に「工事の日程」が影響するのかと思ったものです。(浜野 明千宏)

業界では「スケ」と省略するそうですね。びっくりしました。(秋村 友香)

「スケ」は職人さんの用語ですね。ちなみに、電気工事の業界用語にも2スケ、8スケという呼び方があるようです。この「スケ」の語源は、‘断面積の平方ミリ→ミリスクエア(mm square)→スケア→スケ’とのことです。(吉岡 逸夫)

コラムΩ ミニ知識編

【洪水吐(ダム穴)】

ダムの貯水量が一定以上にならないように設けられた配水設備です。常用するためのものと、規模の大きな洪水用の非常用があります。
図のように漏斗のような形状をしていて、ここに入った水はダムから排水されます。図の洪水吐は自然越流式と呼ばれ、流入した水が流量の調整など無しにそのまま排水されます。

排水中の洪水吐はダム湖にぽっかりと穴が空いているように見え、ミステリアスな様相を呈しています。その不気味な様子から「ダム穴」とも呼ばれています。アメリカのモンティセロダムが特に有名で、検索でも多数見つかりますのでご覧ください。(佐藤 幸男)