先週の金曜日(2011年3月11日14時46分頃)に発生した東北地方太平洋沖地震は、マグニチュードが9.0と推定されており、我々が世界で経験した中でも最大級の地震です。過去にはマグニチュード9.5のチリ地震(1960年)や9.1のスマトラ沖地震(2004年)もありましたが、関東大震災(1923年)を起こした地震が7.9、阪神淡路大震災を起こした地震(1995年)が7.2であったことを思い出すと、その大きさが理解できます。

マグニチュードは地震の揺れの大きさを対数スケールで表したものです。マグニチュードが1大きくなると、震源から地震波として放出される弾性エネルギーは30倍に増大します。震源では断層を挟んで急激なすべりが生じ、それが地震波を生み出しますが、マグニチュードが1大きくなると、断層やすべりの大きさは約3倍になります。このような規則性から、今回の地震では断層の大きさは400km、すべり量は20mにも達したものと推測されます。実際の断層は南北方向に500km、東西方向に200kmの広がりをもったようです。地震が大きかったのは、それを起こした断層が大きかったからです。

今回何故こんなに大きな地震が起きたのか、理由はよく分かりません。今までは宮城県沖、岩手県沖などともっと小さな断層に分かれて地震が起きていたのが、今回は何故かそれらがつながって一緒にすべってしまったのです。同じようなことは西日本でも見られました。そこでは、東海地震、東南海地震、南海地震など、それぞれの断層で個別に地震が起こることが多いのですが、1707年の地震(宝永地震)では、それらの断層が一斉にすべって大地震になりました。大きな地震は、揺れが大きくなるばかりでなく、振動の卓越周期が長くなります。そのために、大きな建造物に顕著な影響が及びます。

海底下で起こる地震で怖いのは津波です。今回の地震でも、揺れによる被害よりも津波による被害がずっと大きかったようです。東北日本の太平洋沖の地下では、日本海溝から列島の下にプレートが沈みこみ、それが陸側の岩盤を少しずつ引きずりこみます。そのひずみが限界に達して、陸側の岩盤が跳ね上がったのが今回の地震です。地震によって陸側の海底は急に隆起し、海側の海底は逆に沈降しました。海面もつられて上下に動き、池に小石を投げたときのように、変動は周囲に広がりました。これが今回の津波です。

津波は波長の長い波で、振動する波のイメージよりも、海面の高低差の境界が水平に移動するイメージの方が実態を表しています。高低差の境界が移動する速度、すなわち津波の伝播速度は、浅い水面波の理論に従って、海底の深さと重力加速度の積の平方根になります。海底の平均の深さとして約4kmを代入してみると、津波はジェット機と同じ程度の速度で伝わることが分かります。陸に近づくと、水深が浅くなって前面の伝播速度が遅くなるために、波がつまって高低差が増幅されます。湾に入るとエネルギーがトラップされて更に増幅されるので、陸に到達した津波は遠海を伝わるときよりずっと高くなります。今回は断層の端が陸の近くにまで達していたために、津波は地震発生後のかなり早い時期に始まりました。

津波の原因となる地震の性質を考えると、陸には最初に押し波(海面の高い状態)が、次いで引き波が来ると予測されますが、それも断層との相対的な位置関係で変わります。津波は長い距離を伝わり、陸にぶつかると反射しますから、最初の押し波と引き波が過ぎても、その後にあちこちで反射した波が次々に到着します。地震の発生後は、応力の状態を調整するための余震が断層付近のあちこちで起きます。余震のマグニチュードは最大でも最初の地震(本震)より1程度小さいのが普通ですが、今回のような大きな地震では、余震も津波を引き起こすのに十分なパワーをもちます。

今回の地震の被害の状況は、全容がまだつかめていません。ましてや、これが日本経済に長期的にどれだけ大きな打撃になるのか、想像もつきません。地球科学者のひとりとしては、地震や津波に関する予知や予測の能力を高めるために、この出来事を有効に活用したいと考えます。この地震で亡くなられた多くの方々のご冥福をお祈りし、被災された地域の復興を願っています。

東京大学名誉教授、アドバンスソフト株式会社 研究顧問
井田 喜明