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【解析事例: ナノ】 理論と実験が一致! 合金の偏析効果による仕事関数制御

背景(事例提供:独立行政法人 物質・材料研究機構 吉武道子様)

金属の仕事関数は半導体との界面におけるショットキー・バリヤの高さを決定する点において、電子デバイス設計上重要な物理量です。

通常、仕事関数を制御するには、異種金属元素を表面に吸着させますが、異種元素を金属母体に混入した合金を熱処理することによって異種原子を表面に偏析させる方法も考えられます。一見、手の込んだ方法のようですが、熱平衡化でのプロセスであるため、蒸着法に比べ非常に安定な表面修飾層が得られる、という利点があります。

本研究はCuとAl(9%)からなる合金の(111)表面に偏析したAlの構造と、その仕事関数への影響を実験、理論両面から明らかにしたものです*1)。

*1) M. Yoshitake, I. Karas, J. Houfek, S. Madeswaran, W. Song, and V. Matolin, J. Vac. Sci. Technol. A 28, 152 (2010).


解析条件

波動関数、電荷のカットオフ・エネルギーは、それぞれ25、225リドベリです。また、Cuのポテンシャルは超軟擬ポテンシャル、Alのポテンシャルはノルム保存型の擬ポテンシャルを用いています。


解析結果

図1に低速電子線回折(LEED)の解析から得られた合金の(111)表面構造を示します。黒丸は表面のCu原子、赤丸は表面に偏析したAl原子です。特徴的な点は、表面Cu原子の1/3がAl原子で置換され、しかも、Al原子が規則的に配置されることです。蒸着によって、このように規則的なAl 1/3被覆層を作ることはできません。熱平衡化でのプロセスによって初めて可能な構造です。

さらに、実験結果の詳細な解析は、Al原子が表面から0.13Å外側に突き出していることを示唆しました。PHASEによる計算はこの変位が0.14Åであることを明らかにしました(図2)。このように、実験と理論は0.01Åの精度で一致しました。

図1:容器モデル形状

図1:実験によって得られた表面構造
赤丸:表面Al原子、黒丸:表面Cu原子、灰色と白丸は、それぞれ、第2層、第3層のCu原子


図2:容器モデル形状

図2:計算によって得られた安定構造


表1に仕事関数の実験値とPHASEによる計算値を示します。比較のために、Cu(111)、Al(111)の仕事関数も記載しています。また、計算値にはAlが1/3被覆率で表面にアドアトム吸着した場合の仕事関数も含んでいます。


表1:異なる表面の仕事関数:単位(eV)

  実験値 計算値
Cu(111) 5.04 4.75(94.3)
Al(111) 4.24 *2) 3.83(90.3)
Cu-9Al(111)置換偏析 4.39 4.45(101.3)
Cu-9Al(111)アドアトム吸着 4.15

( )内は実験値に対する計算値の比(%)を示しています。

*2) J. Holzl and F. K. Schulte, Solid Surface Physics, Springer Tracts in Modern Physics 85 (Springer, Berlin, 1979).


Cu(111)、Al(111)の仕事関数の計算値は0.3~0.4eV 過小評価されていますが、仕事関数の大きさがCu(111)> Cu-9Al(111) 置換偏析 > Al(111) の順であることを再現しています。さらにCu-9Al(111) アドアトム吸着表面の計算値は置換偏析表面より~0.3 eV 小さく、実験に用いられた試料表面が置換偏析型か、アドアトム吸着型かの区別が可能であることを示唆しています。

このように、実験的、理論的手法を併用した仕事関数の解析は、表面構造とその仕事関数への影響を明らかにする上で、強力な手段であることが分かりました。

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