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【解析事例: バイオ】 インスリンのタンパク質全電子計算

インスリンのタンパク質全電子計算

[課題]
 インスリンは糖尿病の特効薬として知られています。近年、遺伝子組み換え技術を用いて新たに超速効型インスリンが登場しました。現在でもインスリン製剤に関する様々な研究開発が行われており、作用発現時間や作用持続時間によるバリエーションが増え、病態や治療目的に合わせいろいろと選べるようになってきています。

 インスリン製剤がどのようにして薬としての効能を発揮するか、図1にその概略を示します。インスリンは6量体、2量体、単量体の3種の安定構造を取ります。製剤中のインスリンは6量体となっています。体内に入って、2量体、単量体と分解されます。インスリン単量体は、インスリンレセプターと結合して血糖値の制御をします。6量体や2量体はレセプターと結合できません。ですからインスリンは単量体にならないと薬効を発揮しません。そのため、いかにして6量体⇒単量体を制御するかが製剤として重要なポイントとなります。

インスリンの吸収模式図と各種インスリン注射後の血中インスリン濃度
図1. インスリンの吸収模式図と各種インスリン注射後の血中インスリン濃度

[解決策]
インスリン製剤のどの部位がどのくらいの強さでどのように結合して6量体や2量体を形成しているかがわかれば、解離の制御に役立ち、新薬開発への重要な手がかりとなります。そのためには、6量体⇔2量体⇔単量体の解離のしやすさを見るためのシミュレーションを精度良く行うことが必要です。

[当社ではなぜできるのか?]
弊社で取り扱っているタンパク質量子化学計算システム Advance/ProteinDFは、タンパク質そのものを丸々量子化学計算することが可能なソフトウェアです。タンパク質の電子状態について精度の良い計算を行うことが可能です。ProteinDFは1990年より九州工業大学情報工学部柏木研究室で開始され[1]、現在においても、東京大学革新シミュレーションセンター佐藤研究室で継続的に改良されているソフトウェア[2]です。2002年より弊社も開発に参画しております。東京大学生産研究所の許諾を受けて商用化し、Advance/ProteinDFという商品名で取り扱っております。

[事例]
超速効型はなぜ速効性を示すのか? 持続型はなぜ持続性を示すのか?

天然インスリン(左)、超速効型インスリン(中央)、持続型インスリン(右)の表面の静電ポテンシャル
図2. 天然インスリン(左)、超速効型インスリン(中央)、持続型インスリン(右)の表面の静電ポテンシャル

図2は天然インスリン、超速効型インスリン(Lispro)、持続型インスリン(Glargine)の単量体についてProteinDFによる計算を行い、タンパク質表面上の静電ポテンシャルを描いたものです。2量体を形成するときの接着面に該当するところを図示しています。図中の赤丸で囲った部分が単量体同士を接着させるのに大きな寄与を持つと思われる部分です。計算結果より、天然インスリンと比較して、超速効型インスリンでは接着部分の静電ポテンシャルの値が結合性を弱めるように変化していることがわかり、2量体→単量体へ解離しやすくなり、速効性を示すことが理解できます。一方持続型ではその逆で、接着部分の静電ポテンシャルの値が結合性を強めるように変化しており、2量体→単量体への解離が起こりづらくなり持続性を示すことがわかります。

[参考文献]
[1] F.Sato, Y.Shigemitsu, I.Okazaki, S.Yahiro, M.Fukue, S.Kozuru, H.Kashiwagi: Int. J. Quant. Chem., 63 (1997) 245.
[2] http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/rss21/
[3] T.Inaba, N.Tsunekawa, T.Hirano, T.Yoshihiro, H.Kashiwagi, F.Sato: Chem. Phys. Lett., 434 (2007) 331.

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