【解析事例: バイオ】 量子化学計算によるドッキング解析の再評価(rescoring)
量子化学計算によるドッキング解析の再評価(rescoring)
[課題]
タンパク質(受容体)と低分子化合物(リガンド)の最適なドッキング構造(ベストポーズ)を探索するドッキング解析は、創薬研究などで活用されています。
通常のドッキングソフトウェアは、各ドッキングポーズの蛋白質への結合性に関するスコア値をランクし、ベストポーズを求めます。スコア値はドッキングソフト独自にカスタマイズされた評価関数で行っておりますので、スコアランクはドッキングソフトに依存する場合があります。したがって、ドッキングソフトで求められたベストポーズが本当に正しいかどうかを知るには、X線結晶構造解析などの実験測定から実際のドッキング構造を得るしかないのが現状です。
ドッキング解析によって得られた立体構造を別の角度から再評価(rescoring)することは、解析結果の妥当性をチェックすることにもなりますので、実験情報がない場合には特に重要です。
[解決策]
ドッキングソフトで用いる評価関数は経験的なものであるため、リガンドをすべて平等に評価するわけではなく、リガンドの種類・構造あるいは受容体の構造形態によって得手不得手があります。
より良いドッキング構造を求めるには、全ての低分子化合物に対して対等に、しかも結合エネルギーを高精度に評価することが必要となります。
弊社で取り扱っているAdvance/BioStationを利用すると、ドッキング構造の結合エネルギーを高精度に求めることができます。
この計算は第一原理的(非経験的)にかつ電子相関効果を含めて実行することができるので、得られた結合エネルギー値はリガンドの形状に左右されず平等に、しかもファンデルワールス(分散力)が支配的となる弱いドッキング構造であろうとも正確に評価できます。
Advance/BioStationでタンパク質とリガンドとの結合エネルギーを評価すれば、ドッキングソフトで得られたベストポーズが本当にベストなのか再評価できます。
[当社ではなぜできるのか?]
弊社はフラグメント分子軌道法計算ソフトウェアAdvance/BioStationの開発および製品販売を取り扱っております。また、大学・研究所・民間企業様よりフラグメント分子軌道法(FMO法)計算を活用したドッキング解析の受託解析サービスを請け負っており、解析実績が多数ございます。
[事例]
脂質輸送タンパク質のドッキング解析
イネの脂質輸送蛋白質nsLTPとパルミチン酸(PAL;CH3(CH2)14COO)とのドッキング解析をご紹介します。Advance/BioStationは、ドッキングソフトで結合評価を苦手とする脂質のようなリガンドとタンパク質との結合の強さを精密に評価することができます。
nsLTP1とPALのドッキング構造を、ドッキングソフトを使って計算すると、ドッキングソフトが評価したスコア順位の第1位~第5位までのPALの各ポーズ(モデル候補)は図1のようになりました。ベストポーズ(第1位候補)はX線結晶構造解析で得られた実験結果のPALの配座(図1赤色)と異なり、さらに結合する位置も異なっていました。
この計算で別のポーズを調べると、スコア順位で第2位のポーズ(図1青色)が実際の配座とかなり良い一致をとっていました。従ってこのドッキング計算では、ベストポーズは正しいPALの配座構造である実験結果を再現しておらず、むしろ第2位のポーズが最も正解に近い配座を予測していたと言えます。
ドッキングソフトで予測した構造に対して、Advance/BioStationのFMO-MP2/6-31Gで結合エネルギーを計算した結果を図2に示します。結合エネルギーが最も大きい(最も大きい負の値)のは第2位のポーズとなっています。Advance/BioStationの量子化学計算で得られた最も強い結合エネルギーを評価した第2位のドッキング構造は、まさに実験結果と最も近い構造の場合と一致しています。
このように、Advance/BioStationをドッキングソフトで計算された構造の再評価(rescoring)に活用すれば、ベストポーズを評価する別の基準が得られ、より正しいドッキング構造を量子論の視点から探すことができます。


