【解析事例: バイオ】 タンパク質全電子計算の活用法
タンパク質全電子計算の活用法
[課題]
タンパク質のような巨大分子を量子化学計算する方法として、量子計算と古典計算を併用したハイブリッド法(QM/MM法やONIOM法など)があります。これはタンパク質を「重要な部分」と「重要でない部分」に分類し、「重要な部分」には量子論による計算を、「重要でない部分」は古典論による計算を行い、双方の結果を組み合わせることにより、タンパク質全体の計算実行を行います。しかしながら、「部分」の取り扱いに苦労することがあります。
たとえば、活性中心にヘム鉄を含むヘモグロビン、P450、シトクロムcは、ヘム鉄が「重要な部分」となります。ところが、この3つのタンパクは、それぞれ異なった機能を持っています(ヘモグロビンは血液中での酸素の運搬。P450は生体中における薬毒物の代謝、シトクロムcは細胞膜の中での電子の運搬)。つまり活性中心が同じでも、近傍のペプチド鎖により、タンパク質の持つ機能は全く異なります。そのため、活性中心である鉄の錯体部分だけでなく、その周りを取り巻くペプチド鎖まで含めて「重要な部分」として取り扱う必要があります。機能を理解するために、「重要な部分」として活性中心近傍のどの程度の領域まで考慮すればよいのか、判断に迷うところです。
[解決策]
このような問題に遭遇してしまう原因は、そもそもタンパク質を「重要な部分」と「それほど重要でない部分」に領域分けして考えてしまうことにあります。つまり、タンパク質そのものを丸々量子化学計算で取り扱うことができれば、このような厄介な問題に遭遇しなくて済みます。
[当社ではなぜできるのか?]
弊社で取り扱っているタンパク質量子化学計算システム Advance/ProteinDFは、タンパク質そのものを丸々量子化学計算することが可能なソフトウェアです。ProteinDFは1990年より九州工業大学情報工学部柏木研究室で開始され[1]、現在においても、東京大学革新シミュレーションセンター佐藤研究室で継続的に改良されているソフトウェア[2]です。2002年より弊社も開発に参画しております。東京大学生産研究所の許諾を受けて商用化しAdvance/ProteinDFという商品名で取り扱っております。
[事例]
ProteinDFによるシトクロムcの全電子計算結果をご紹介します[3]。
図.ProteinDFによるシトクロムcの全電子計算結果
(東京大学革新シミュレーションセンター佐藤文俊教授提供)
右下の4つの絵がシトクロムcのHOMOと呼ばれる分子軌道の等値面です。値は左上、右上、左下、右下の順に±0.05、±0.005、±0.0005、±0.00005です。左上の絵は活性中心近傍を拡大・強調して描いたもので、その他の3つの絵はシトクロムc全体の絵です。反応の際に重要と思われるHOMOが、活性中心近傍のみならずタンパク質全体に広がっていることがわかります。タンパク質を「重要な部分」と「重要でない部分」に切り分けることが容易でないことを示しています。
[参考文献]
[1] F.Sato, Y.Shigemitsu, I.Okazaki, S.Yahiro, M.Fukue, S.Kozuru, H.Kashiwagi: Int. J. Quant. Chem., 63 (1997) 245.
[2] http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/rss21/
[3] F.Sato, T.Yoshihiro, M.Era, H.Kashiwagi: Chem. Phys. Lett., 341 (2001) 645.


